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日々の学習に役立つ学習コラム①

できるだけ早く始め、巣立ちのポイントを逃すな!

《みるみるできるようになる方法》

 高校生の君たちからの相談で、いちばん多いと思われるのは、「どうすれば、できるようになりますか?」であろう。
 さきに答えをいってしまえば、自己イメージ(Self-image)が「できる自分」であれば、必ずできるようになるし、「できない自分」であれば、できるようにならない。「できる」と思ってやっているかぎり、君は、いつでも目標達成の途中経過にいるし、根気よく続けていれば、必ずできるようになる。
 「できる自分」をイメージするのは、かんたんだ。たとえば、国立大学を志望する生徒であれば、志望する国立大学と、そこでバリバリと学んでいる自分を思い浮かべ、その場面に「うれしい」という感情を貼りつける。これを毎晩、寝る前に、数分、やってみる。数分あれば、「国立大学・自分・うれしい」を一つの場面として強くイメージできるはずだ。(数十秒でもかまわない)
 たったこれだけのことが、ウインブルドンで優勝するテニス・プレーヤーをつくるし、アカデミー賞を受賞する俳優をつくるのだ。
 仕組みは簡単で、その自己イメージこそ、本来の自分である。だから、国立大学で学んでいる自己イメージの君は、目の前の大学受験の学習によろこんで取り組んでしまう。なぜなら、人は、無意識のうちに、自己イメージに従って、行動するものだからだ。
 神経科学の観点でいえば、学びたくて学んでいるとき、君の脳の海馬は活性化しているので、学習がスムーズに捗る。やがて海馬のメモリーが飽和すると、自然に眠くなる。眠くなったら、そのまま、眠るのがよい。無理して起きていても、海馬にはもう記憶の容量がない。眠ることによって、短期記憶を長期記憶に移動させ、メモリーを空けることができる。(睡眠は、記憶の定着に不可欠である)起きたら、また学習を始める。
 以上を実行すれば、君は大秀才になれるのだが、いつのまにか、「できない!」と嘆き、「できない自分」を固定化してしまう。その原因は、たぶん誤った学力観であろう。

《できるようになるには、ある程度の時間がかかる》

 山手日本語学校(YJLS)では、外国人の生徒たちに日本語を教えている。その日本語教師の養成に「420時間の時間が必要」という文化庁のガイドラインがある。
 個人の能力を考慮すれば、もっと短くてもいい場合もあれば、もっと長くなければならない場合もあるだろう。それでも、420時間をかければ、まず日本語教師としてスタート地点に立てるだろうという判断である。
 ここで注意してもらいたいのは、スタート地点に立つのに、「420時間が必要」という点である。
 似たような話題であれば、英会話の初級を身につけるのに、「およそ1000時間が必要」であるそうだ。これも英会話のスタート地点に立つのに、1000時間ということだろう。
 もしかしたら、なにごとであっても、「できない!」と嘆く君は、スタート地点にさえ立っていないのかもしれない。「できない」の正体は、学習のスタート地点に立つ前に(つまり準備段階で)、早々に諦めてしまっているだけのことである。

 ところで、生物の神経細胞が持つ性質をモデル化したものをシグモイド関数といい、そのカーブをシグモイド曲線という。もしかしたらアナロジーにすぎないかもしれないけれど、学習も運動も芸事も、ある一定の成果を得るまでに、シグモイド曲線を描くといわれる。
 以下のグラフは、標準シグモイド関数である。

 このグラフに、ある一定期間を準備段階として、伸び始める地点(本格的な学習のスタート地点)に「赤い星印」、グンと伸びて成果を得る地点に「青い星印」を入れると、以下のグラフのようになる。

 

 赤い星印までが10時間なのか、50時間なのか、100時間なのか、は、対象とする学習の難易度や学習者の本気度、また、学習方法などによって、大きく異なるであろう。それでも、経験的に、あるいは、統計的に、どの調査も、学習や運動や芸事などの身につき方は、シグモイド曲線に近くなるという報告を上げている。
 つまり、ある一定期間の準備(伸び悩み?)を経過した後、あるポイントを過ぎると、飛躍的に伸び始めるのだ。
 私は、この伸び始めるポイントを「スタート地点」と呼ぶべきだと考える。なぜなら、それまでの期間はウォーミングアップに過ぎず、伸び始めるポイントで本格的なスタートラインにつくからである。どの学習にも、このポイントは必ずある。「できない」のは、このポイントに到達する前に、あきらめてしまっただけだろう。あの生徒も、もう少し粘り強く取り組めていれば…と思うと、やはり残念になる。

《できるだけ早く始め、巣立ちのポイントを逃すな!》

 三日坊主という言葉がある。出家したものの、朝の勤行などに耐えられず、三日ほどで世間に戻ってしまうことを皮肉ったのだ。実は、三日坊主の原因は、自己イメージができていないからである。空海や最澄などを師として、僧侶としての自己イメージをもっていれば、三日でやめる坊主などいない。
 大学受験の学習もまったく同じだ。大学生としての自分、あるいは、大学を通してさらに向こうにいる自分がイメージできるならば、学習が三日坊主で終わることなどない。本気の目標がないから「やる気」が出ないのだ。
 じつは、「本気の目標=自己イメージ」である。
 たとえば、宇宙飛行士をイメージしている人は、宇宙飛行士をめざし、宇宙飛行士になる。弁護士をイメージしている人は、弁護士をめざし、弁護士になる。保育士をイメージしている人は、保育士を目指し、保育士になる。女優をイメージしている人は…すべて同じである。
 目標はいくつあってもいいし、自己イメージも多様であっていい。大学受験がその一つであれば、君は、容易に大学受験生になることができる。
 まず自己イメージをしっかりとつくること。(つまり、目標をつくること。誰かをモデルにしてもかまわないけれど、イメージの人物は必ず自分でなければだめである)
 そして、伸びるポイントを予測することができない以上、目標に向かう努力をできるだけ早く始めるのが正解である。始めてから、しばらくの期間は、鳥の巣立ちまでの期間と同じで、君たちは、雛鳥のようなものである。
 本格的な学習は、伸びるポイントを過ぎてから、つまり、飛べるようになってから、スタートする。
 さあ、迷うことなく、学習に取りかかろう!

本コラム担当:Tsutsui Yasuaki